山梨県北杜市白州にある自然循環型のオーガニックファームのブログです。
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「踏切のある土地」 <ファーム探し その5>
ファーム探しの話の第5話です。
オオムラサキの乱舞に驚いた話を前回しました。

オオムラサキの地よりも僕らのなかで本命となっていた土地がありました。
そこはJRの線路近くにあってアクセス性がよく、ランドマークになりそうな牛舎跡のサイロがあり、養蚕で使われていたという歴史ある古民家もありました。
水田と畑、雑木林が広がっていて、その間を曲がりくねった道が続いていました。
道の先に三好達治の詩のなかにでも出てきそうな”小さな踏切”があり、その向こうに涼しげな赤松林と雑木林があり、さらに静かな別荘地へと繋がっていました。
田畑の向こうには、富士山をはじめとする山々が望めました。
風景に詩的なリズムが感じられました。
リズムがあれば、きっと物語が生まれてきます。

なぜ、そんなに気にいった土地を活動の場に選べなかったか?
ひとつは関係構築に失敗した点が大きいようです。
土地の人から見れば、僕らはよそ者ですから信頼を得るのが簡単ではなかったのだと思います。
そう、“踏切”が開かなかったわけです。

これは新規就農者にとって、誰もが抱える悩みだと思います。
通常、就農する場合は、コストから考えて、土地を購入せずに賃借するのが一般的なのですが、そのためには借りた土地をきちんと耕作していける証が必要となります。
地元の人は折角手放しそうな土地があっても疑心暗鬼になって貸せず、場合によってはタイミングを失って完全な耕作放棄地と化すこともあるように思います。
個人的には、行政や行政代行のNPO等が間に入って、新規就農者の信用を担保する仕組みがあればいいのではないかと思っていますが、まぁ現実にはそんな仕組みはないわけで、やがてこの土地への期待は失望に変わっていきました。


別荘地へと抜ける木漏れ日の路



by タイジュ(運営担当)
(ファーム通信 vol.8(12/10号)より転載)



「オオムラサキ乱舞の放棄地」 <ファーム探し その4>
ファーム探しの話の第4話です。

猿の威嚇に立ちすくんだ(第3話)後で、韮崎市の農政関係の方から、JR駅にも近い耕作放棄地を紹介してもらいました。僕らの作ったプレゼン資料が思いのほか効果的だったようで、担当者自身も乗り気になられたようでした。
紹介いただいた畑は、その昔利用されていたものの、今は背丈くらいの雑草が蔓延り、畑というより「夏草どもや夢のあと」的な古戦場の風情が漂っていました。既に傾いて忘れ去られたような小屋もありました。道路を開削したときの残土でできたと思われる小山もあって、市の担当者はヤギ山にできると本気とも冗談ともつかぬ感じでおっしゃっていたそうです。

この畑の問題は、道路に隣接しているために、絶えず響くトラックなどの音。
都会ではあたりまえの音なのですが、田舎らしい静けさを求めて畑に来たら、ちょっと、興醒めだよね、ということで選外となりました。
ただ、畑が先にあって、道路はそれを分断する形で後でできたということですから、音について顔をしかめたのは、この畑自身だったのかもしれませんね。

畑ならぬ草原に隣接する雑木林に入ってみると、驚いたことに、国蝶のオオムラサキが乱舞。
大きな蝶の翅がひらひらと雑木林に差し込む光に映し出される光景にちょっと息をのみます。
オオムラサキを見てみたい方、ご案内しますよ(笑)。 

by タイジュ(運営担当)
(ファーム通信vol.7(2010/12/3号)より転載)





「猿は今も苦手」 <ファーム探し その3>


ファーム探しの話の第3話です。
(これまでの話は、ブログ右のカテゴリーの「ファーム探し」をご覧ください。)

さて、前回は泰斗がWWOOF(ウーフ)として、北杜市周辺の有機農家をまわった話をしました。
僕らはファームで、野菜をつくるだけでなく、鶏や豚を飼って、循環型で農畜産業を手広く扱い、かつ、都会の人たちが農的なライフスタイルを味わえるような場所にしたいと考えていました。そのため、場所選びには、農業に適しているかどうかということに加えて、アクセス性、景観が重要でした。

候補地のひとつは、増富温泉に行く途中の集落から登ったところにある標高900mの高台。市が森を切り拓いて、新たに農地整備して、地元農家向けに提供しようとしているところなのですが、利用がほとんどされていない農地。
数ヘクタールの広さがまとめて利用できる可能性があり、民家が近くになく(アフリカ太鼓のジャンべを叩いたって平気)、加工施設が既にあり、湧水まであって、南アルプスが一望できるという利点が並びました。
一方で、集落から離れていてアクセス性に難があり、山の上に独立していて農村景観としての連続性に欠けている点が課題でした。

さらに、強敵の 
畑から下りたところに人がきれいさっぱりと離村してしまった5軒ほどの家屋の集落があるのですが、人がいなくなった家の屋根の上で大猿がこちらを威嚇しているではないですか。
バリ島のウブドのモンキーフォレストで猿に襲撃されてから猿への恐怖心が植え付けられてしまった僕には、う〜む・・・という感じだった。
畑が荒らされたら、たまったものじゃないですものね(ちなみに、ぴたらファームが畑を構えている白州も秋になって猿があちらこちらで悪さをしているらしいです。ぴたらの畑にはまだ現れていないわけですが・・・)。

泰斗はこの候補地を結構気に入っていて、1人だったらこの地に就農していたのかもしれませんが、僕やスタッフでもある妻が二の足を踏んだこともあって、結局、ここは候補地から外れたのでした。
やはり、土地に合う、合わないの
フィーリングというものがあります。(つづく)

<ファーム通信vol.6(11/26号)より転載> 

    




潜入捜査員、彼の正体は一体・・・ <ファーム探し その2>
 ファーム探しの第2話です。

(これまでの話は、ブログ右のカテゴリーの「ファーム探し」をご覧ください。)

 

 山梨県北杜市の農村景観や山岳景観の魅力にローレライの舟人のように惹かれてしまった僕たちは、この地を中心としてファーム探しを進めていくことにしました。             

・・・と言っても、この地は身寄りも友人もいないので、ゼロから始めるしかありません。また、北杜市といっても、八ヶ岳から南アルプスまで広がっていて、さらにその周辺市町村も入れると広大なエリアで土地の特徴を把握するのもなかなか大変なものです。

 そこで、虎穴に入らずんば虎児を得ず、ファームに入らずんばファームを得ず、ということで、泰斗が潜入捜査員よろしく、北杜市やお隣の韮崎市の有機農家さんをまわることにしました。土地の情報を得るだけでなく、有機農家さんや地域の人たちとのネットワークをつくり、野菜や農業技術の地域的な特色等をおさえるためです。

有機農家で実際に農作業をさせていただくには、“WWOOF(ウーフ)”という便利な仕組みがあります。お金のやりとりなしで、「食事・宿泊場所」と、「力・知識・経験」を交換するというワールドワイドな仕組みで、ウーファーを募集している有機農家さん宅に泊まって農作業をお手伝いします。泰斗や彩ちゃんも豪州やNZでも経験しているそうです。

泰斗は、ウーファーを募集している北杜市の農家を全て訪ねたと言えるくらい、春から夏まで有機農家さん巡りをしていました。おかげで、北杜市の有機農家さんについては誰にも負けないくらい詳しくなったようです。えがおファーム、畑山農場kino café、身体気象農場…。さらには、人とのネットワークで、豚放牧のぶぅふぅうぅ農園Café くじらぐもたわわ邸八ヶ岳YESファーム…。僕も週末に山梨に訪問する度にいろいろな方に紹介していただきました。有機農家というのは、有機物を循環させるだけでなくて、人と人との絆をつなげるものなのかと妙に納得してしまいました。

 人との繋がりが増えていくに従って、ファーム候補地がいくつか挙がってきました。また、長野の自然農法センターで研修生として働く彩ちゃんとも出会うことができたのでした。(つづく)         

<ファーム通信vol.4(11/12号)より転載>
by
タイジュ(運営担当)



山梨のカフェ「くじらぐも」。泰斗が一時的にスタッフ化していました。




ファーム探しは、衝動的な恋愛で終わる <ファーム探し 
僕(大樹)と弟(泰斗)がファームを始めようと考えたのは、一年前の2009年10月に遡る。鹿児島の放牧黒豚の「えこふぁーむ」を一緒に見学に行ったときのことだ。ここで僕らは兄弟でファームを始めることを初めて口にしたように思う。

そして始まったファーム候補地探し。1/11に山梨の大月、勝沼、塩山、1/19に群馬の榛名、2/23に房総のいすみ鉄道周辺、3/22に山梨の北杜市。・・・とまぁ、お互いの休みが合うと、妻も誘って、ファーム候補地探しに明け暮れた。

泰斗が1月中旬に、その頃スタッフをしていた「organic farm暮らしの実験室」で作業中に屋根から落ちて足を骨折して松葉杖となるというアクシデントもあり、ペーパードライバーの僕が冷や汗ものの運転をしての土地探しだった。

房総は、いかにも日本の里山という雰囲気で、水田・畑の後背地に杉林が控えていて、トトロ的な郷愁を呼び、悪くなかった。ブルーベリー農家さんからは、ブルーベリーやイチジクの育て方を教えてもらって、よかったら来ないかとまで誘いを受けた。心は揺らいだ。早春の風を受ける杉の梢のように。

 ・・・だけど、3月に見た北杜市の風景が僕らの心を決めさせた。


北杜市の高根から見渡した南アルプスの山々のなんと美しいこと。壮麗な白き残雪をかぶった山々がまだ黒々とした畑の向こうに、並んでいて、いつまで眺めていても飽きることはなかった。

僕も泰斗も大学時代はワンダーフォーゲル部に所属して(ついでに主将にまでなって)、完全に山に魅せられていたこと。
また、北杜市周辺の雑木林や農村景観が、故郷北海道の風景とも似通っていたこと。
なんとも道産子の山男の単純さ(よく言えば純真さ!)。
それまで考えていた東京からのアクセス性の問題や、冬の農業の問題など、その瞬間、「どうにかなるだろう」と思ってしまっていた。恋愛というものはすべての欠点を見えなくするものらしいのです。Love is blind (シェイクスピア)。

・・・ということで、皆さんにも勇壮で急峻な甲斐駒ケ岳や鳳凰三山といった山岳景観や雑木林と丘陵地帯の農村景観をぜひ見に来て欲しいと思います。ただし、土地に魅せられすぎぬようご注意を!(笑) 

[ぴたらファーム通信vol.3(11/5号)より]
 by.タイジュ(運営担当)